修士論文構想発表
指導教員:滝沢 直宏 先生
DICOM M1 土居 峻


英語における日本語からの借用語


  本研究の目的は英語に借入された日本語がどのように使用され、どのような機能を果たしているのかを解明することである。既存語(もともと英語にあった語)と類義語の関係にあるものを中心に、その使い分けについて分析し、日本語借用語に共通する特徴を見出すことを目標とする。
  日本語借用語に関する論考は数多く出ているが、そのほとんどが借用語を一覧表にまとめただけで、体系的に研究したものは少ない(伊藤2002; 木村2003; など)。存在するものの中でも、特定の語についての説明に終始しているものが多いことから、さらなる検証・研究の余地は十分にあるものと思われる。


●先行研究

  木村(2003)「既存語と借用語の使い分け――magnateとtycoonの場合」

    Oxford English Dictionary (OED)とBritish National Corpus (BNC)の全文検索によって2つの語の現われる環境について分析
    magnateとtycoonは共に「実業界の巨頭」「大富豪」を意味する

    出現環境は異なる傾向を示す
        ・前後文脈:    magnate    権力を持つもの(例:king, bishopなど)・権力の範囲(例:northern, local, territorialなど)・産業名(例:media, oil, steelなど)
                     tycoon     産業名(例:media, publishing, oilなど)
        ・同格の固有名詞:    magnate    直前42%、直後58%
                           tycoon     直後83%
        ・tycoonは特定の人物に対して頻繁に使われる(Robert Maxwell・Richard Branson・Alan Bondが圧倒的に多い)。magnateはより幅広く使われる
              など

  BNCだけからは「特定の人物」に対して使われると結論できない。BNC以外でも検証が必要。アメリカ用法の確認も必要
  既存語と借用語の使い分けという観点では「土地の権力者」の意味でのmagnateを考慮する必要はあるのだろうか


  伊藤(2002)「外来語の意味変化――ドイツ語に導入された日本語の意味機能について」

    ドイツ語に入った日本語
      ①  Harakiri(腹切り)         自殺行為/危険を孕んだ行為
      ②  Kamikaze(神風)         自爆攻撃
      ③  Bonsai  (盆栽)          小さな/ミニチュアの/(未熟な)
            など
                一部否定的な意味を表わすこともある
                一部の語に意味の拡張が見られる

    ドイツ語にもとからあるMiniatur・KleinとBonsaiとの使い分け
      Miniatur    「本来の大きさ」が前提として意識され、その大きさに対して「ミニチュアの・小型の」という意味を表わす
      Klein        「本来の大きさ」は意識されず、単に「小型の・小さい」の意味を表わす
      Bonsai      「本来の大きさ」が前提とされ、それに対して「小型の・ミニチュアの」という意味を表わす
            皮肉的・否定的なニュアンスが付加される場合がある(新聞等で頻繁に見られる皮肉的な文体との関係か?)

  ある文体からの影響について言及する場合は例文が欲しい
  英語でも同じように意味拡張が起こっている例はあるのか
  既存語にはないニュアンスが付加されうる事例は英語にもある?


●調査対象・調査方法

  調査対象とする日本語借用語については、先行研究の語彙リストからサンプルとして10〜20語程度を選ぶ。


    対象となりそうな語の例
            tycoon―magnate, baron
            honcho―boss, leader
            gaijin―foreigner
            kamikaze―reckless
            Nippon―Japan
            a skosh―a little                   など

  OEDで各語の語義・用法を調べ、BNCで確認する。必要があれば、他の辞典や英文雑誌、英字新聞なども補助的に使用する。既存語と借用語とを比較し、日本語借用語がどのような意味・文脈・媒体・分野・形式で使われているか、その特徴を分析する。その結果から、日本語借用語に関して一般化できる事象を見つけ、まとめたいと思っている。

    意味:語義・意味内容(否定的・肯定的・批判的……)
    文脈:前後関係・文意
    媒体:雑誌か、新聞か、書物か……
    分野:どんなことについて書かれた文章か
    形式:単複・派生・時制・統語範疇


●研究計画

  2005年3月まで    先行文献・先行研究調査
  2005年6月まで    データ分析
  2005年6月から    論文執筆


●参考文献等

  Baugh, Albert C.; and Cable, Thomas.  2002.  A History of the English Language.  5th ed.  London: Routledge.
  Cannon, Garland.  1981.  "Japanese Borrowings in English."  American Speech 56: 190-206.
  Cannon, Garland.  1994.  "Recent Japanese Borrowings into English."  American Speech 69: 373-397.
  Evans, Toshie M.  1997.  A Dictionary of Japanese Loanwords.  Westport, CT: Greenwood Press.
  早川勇.  2003.  「英語に入った日本語語彙の初出年調査」  『日本語科学』 13: 79-108.
  石野博史.  1999.  「海外に知られている日本語」  『日本語学』 18 (4): 29-40.
  伊藤眞.  2002.  「外来語の意味変化――ドイツ語に導入された日本語の意味機能について」  『言語文化論集』(筑波大学現代語・現代文化学系) 58: 1-34.
  加藤秀俊・熊倉功夫 編.  1999.  『外国語になった日本語の事典』  東京: 岩波書店.
  木村まきみ.  2003.  「既存語と借用語の使い分け――magnateとtycoonの場合」  『英語コーパス研究』 10: 25-40.
  三輪伸春.  1995.  『英語の語彙史――借用語を中心に』  東京: 南雲堂.
  「日本語から借用された英語」.  1994. 『小学館ランダムハウス英和大辞典』  第2版.  東京: 小学館.  pp. 3181-3185.
  Oxford English Dictionary Second Edition on CD-ROM.  2002.  Version 3.0.  Oxford: Oxford UP.
  砂澤健治.  2003.  「英語に入った日本語語彙」.  ELLiSSS 14: 26-34.
  東京成徳英語研究会 編.  2003.  『西洋の日本発見――OED Additions Seriesに見られる日本語』  東京: 東京成徳短期大学.
  東京成徳英語研究会 編.  2004.  『OEDの日本語378』  東京: 論創社.
  Warren, Nicholas W.  1991.  "Loanwords: A Global View?―Observations on why and how languages borrow from each other."  『福岡女子短大紀要』 41: 1-9.